虚実混交プロジェクト

概要

虚実混交は、現実と虚構、事実と演出、制度と物語がどのように混在し、相互に支え合っているのかを検討する研究です。

本研究では、現実と虚構を互いに排他的な領域として扱うのではなく、記述、観測、役割、制度、反復、相互参照を通じて、両者が連続的に構成されるものとして捉えます。その立場から、虚構が現実に侵入する局面だけでなく、現実それ自体がどのような虚構的構成を含みうるのかを記述することを試みます。

研究の背景

一般に、現実と虚構は区別されるべきものとして理解されます。現実は事実に基づき、虚構は創作や想像に属するものとされます。しかし、社会的実践の多くは、このような単純な二分法では十分に説明できません。

制度、肩書、組織、貨幣、国家、ブランド、キャラクター、共同体、人格、役割といったものは、物理的対象として存在しているわけではないにもかかわらず、現実の行動や判断に強い影響を及ぼします。また、SNS上の自己呈示、生成AIによるもっともらしい記述、演出された日常、フィクションを介した社会的関係などは、虚構と現実の境界を継続的に攪乱しています。

本研究は、このような状況を例外的現象としてではなく、現実そのものの基本的構造に関わる問題として扱います。

研究目的

本研究の目的は、現実と虚構の関係を単純な対立としてではなく、相互構成的な関係として記述し、その成立条件を明らかにすることです。

具体的には、以下のような問いを扱います。

研究対象

本研究では、主として以下の対象を扱います。

制度的現実

組織、肩書、役職、規則、共同体、通貨など、記述や合意によって維持される存在を対象とします。これらは物理的に手に取れる対象ではないにもかかわらず、人の行動や判断を拘束し、長期的な現実性を持ちます。本研究では、制度的現実を単なる背景条件ではなく、虚構と現実が混じり合う典型的な場として扱います。

虚構的実践

演劇、ロールプレイ、フィクションの共有、物語的自己記述、キャラクター運用など、虚構を通じて現実の行動や関係が変化する実践を扱います。ここで関心があるのは、「虚構である」と理解されているものが、なぜなお人を動かし、関係を組み替え、出来事を発生させるのかという点です。虚構は現実の外部にあるのではなく、現実の編成に参与していると考えます。

デジタル環境における虚実の混在

SNS、生成AI、アバター、ボット、仮想空間など、記述と呈示が現実性の一部を構成する環境を分析します。プロフィール、投稿履歴、画像、対話の癖といった断片が積み重なることで、実体の不明なものが一貫した存在として受け取られる場面は、本研究にとって重要な観察対象です。

本研究所自身

本研究所は、本研究における主要な観測対象の一つです。本研究所がどのような記述、観測、役割、制度、参照関係によって成立しているのかを検討します。本研究所は研究を行う場であると同時に、虚実混交の問題をもっとも集中的に示す事例でもあります。

研究方法

本研究では、以下の方法を組み合わせて検討を行います。

記述的観察

制度、物語、役割、演出、観測などが現実性を形成している具体的事例を観察し、その成立過程を記述します。本研究では、何が事実であるかを即座に判定するのではなく、何がどのような手続きによって「事実らしく」見えているのかを丁寧に追います。現実性はしばしば、対象そのものよりも、記述と受容の反復の中で強化されるためです。

比較分析

現実と見なされる事例と虚構と見なされる事例を比較し、両者を分ける条件と、両者に共通する構造を検討します。本研究は、両者の差異を整理するだけでなく、現実と虚構がどの局面で接続し、どの局面で切り分けられるのかを比較的に記述することを重視します。

概念分析

現実、虚構、事実、制度、演出、役割、記述、観測といった概念を整理し、理論的枠組みを構築します。とりわけ、虚構を単なる偽り、現実を単なる事実として固定する語り方では捉えきれない事例に対して、概念の側を調整しながら記述可能性を拡張することを目指します。

実践的検証

必要に応じて、架空組織、役割の導入、記述の反復、公演的実践などを通じて、虚構が現実性を帯びる条件を検証します。ここでの実践は、研究対象を外部から眺めるだけではなく、虚構がどのような条件のもとで制度、関係、行動へ接続していくのかを実際に発生させる方法として位置づけられます。

現在の検討課題

現在、本研究では特に以下の論点を重点的に検討しています。

本研究と空想虚構研究所との関係

本研究は、本研究所における基礎的研究の一つです。本研究所は、本研究所が実在しないことを実証するために設立されており、そのため、本研究所自身が虚実混交の問題を集中的に示す対象となっています。

本研究所は、研究対象について語る場であると同時に、それ自体が研究対象でもあります。したがって、本研究は外部の事例に関する研究であると同時に、本研究所自身の成立条件を記述する研究でもあります。